大原司法書士事務所

相続法改正の注意点について

相続法改正の注意点について

カテゴリ:司法書士コラム

近年、相続法が大きく改正されていますので、法改正で変わった点について解説していきます。

法改正の概要

民法の中には相続に関するルールも規定されており、この部分を「相続法」と呼ぶこともあります。相続法に関しては長らく大きな改正はされていなかったのですが、平成31年1月31日から段階的に多くのルール変更が適用されています。

配偶者居住権

法改正により近年取扱い方法が変わった財産の1つに「配偶者居住権」が挙げられます。
配偶者居住権とは、配偶者が居住していた被相続人の建物の全部を、無償で使用収益できる権利のことです。
この権利が設けられたのは、配偶者の自宅と生活費確保の両立が難しいという問題があったからです。

例えば遺産として残されているのが「1,000万円相当の自宅」と「預貯金1,000万円」であったとしましょう。相続人が被相続人の配偶者と子の合計2人だとし、このとき被相続人と一緒に住んでいた配偶者が自宅を取得したとすれば、法定相続分に従うとそれぞれの取得分は1,000万円です。すると、配偶者は自宅でそのまま生活を続けるには預貯金が取得できなくなり、生活に困窮してしまうという問題が生じるのです。

むろん、共同相続人が遺産分割協議をして、もっと実情に合った遺産分割をするのが通例ですし、子が建物を相続して親に無償で居住させるなど世間一般によく行われています。
配偶者居住権は、この実態を法的権利にまで高めたものと言えます。

これに対し配偶者居住権が新設されてからは、1,000万円相当の自宅を「500万円相当の配偶者居住権」と「500万円相当の負担付き所有権」に分けることができます。そうすると配偶者には自宅で済み続ける権利と500万円の預貯金が与えられ生活費をある程度を確保することもできます。子についても負担付きながら所有権を取得し、預貯金500万円を確保することができます。

配偶者居住権を取得させるには、相続開始後の遺産分割協議で決めることもできますし、被相続人が遺言書を作成して指定することもできます。

その他、配偶者居住権のポイントを以下に示します。

  • 一部、居住の用に供していなかった部分があっても配偶者居住権は及ぶ(同権利は建物の全部に及ぶ)
  • あくまで居住するための権利であり、増築・改築をするには所有者の同意が必要
  • 所有者の承諾がなければ第三者に貸して収益を得ることもできない
  • 相続開始の時点で配偶者がその建物に住んでいなければ配偶者居住権は取得できない(老人福祉施設などに居住していると同権利を得られない)
  • 配偶者居住権の存続期間は終身が原則(ただし遺産分割協議や遺言で期間の定めを置くことは可能)

預貯金の払い戻し

預貯金に関してもルールが変更されています。

具体的には、「預貯金の払戻し制度」が作られ、遺産分割前でも一定限度で預貯金の払戻しが受けられるようになったのです。

改正前だと遺産分割で相続人それぞれの取得分が定まらない限り、相続人が単独で預貯金債権を行使することはできないと考えられていました。しかし遺産分割協議は相続開始後即座に始められるわけではありませんし、その間も生活費や葬儀費用などは発生します。これらに大きな費用を要するケースや被相続人の資力を頼りに生活していた方は生活に困ってしまいます。

そこで改正後はこういった相続人の資金ニーズに応え、預貯金の払戻し制度が置かれました。払戻しができる上限は、「相続開始時点における預貯金債権額の3分の1」です。共同相続人がいる場合には、各々の法定相続分に応じた割合でさらに分割して考えます。例えば配偶者と子の合計2人が相続人であるならさらに2分の1となり、払戻しができるのは各々6分の1までとなります。この割合までであれば、家庭裁判所の判断を要することなく引き出せます。ただし金融機関が定める払い戻し限度額の制限があります。
なお、払戻し分がそのまま取得できたのでは早い者勝ちで有利になってしまいます。そこで公平性を図るため、「行使した預貯金債権の分は、後日の遺産分割においてその者が取得した財産とみなされる」とのルールも規定されています。

特別の寄与による金銭の請求権

もう1点、被相続人に特別の寄与をした人物は、金銭の請求権が取得できるとの規定も置かれました。
具体的には、「相続人以外の被相続人の親族であって、無償で被相続人の療養看護などを行っていたのであれば、相続人に対して金銭の請求ができる」という規定です。

改正前だと、相続人以外の者がどれだけ被相続人の介護などに尽くしていたとしても相続財産を取得することはできませんでした。例えば被相続人の子の配偶者Aが介護を長年続けていたとしても、Aは被相続人の法定相続人ではないので、相続財産を得られません。被相続人の兄弟姉妹が介護をしていたとしても同様の立場に立たされる可能性があります。
これらの者に寄与料を与えるには、被相続人に遺言を書いてもらって、遺贈するしか手段がありませんでした。
これでは実質的な不公平があると考えられ、法改正がなされました。

改正後は相続人に対して金銭請求ができ、介護などの貢献に報いることができます。なお、遺産分割に参加できるようになるわけではありません。そのため事後的な金銭請求のみを認めることとしたのです。

この請求権を得られる者、得られない者は下表のとおりです。

 

請求権を取得できる者

被相続人の6親等内の血族

被相続人の3親等内の姻族

請求権を取得できない者

相続人

相続放棄をした人

相続欠格者

被廃除者

 

なお、請求権を取得する前提として「一定程度を超えた貢献をすること」は必要です。