大原司法書士事務所

生前贈与とは?遺贈との違いを詳しく解説

生前贈与とは?遺贈との違いを詳しく解説

カテゴリ:司法書士コラム

「生前贈与」は相続対策としてよく活用されている手法です。同じく財産を移転する「遺贈」という方法もありますが、やり方や節税効果が異なりますので、それぞれ特徴を踏まえて適材適所で活用することが大事になってきます。

ここではまず生前贈与や遺贈の概要を説明し、両者にどのような違いがあるのかを具体的に解説していきます。

 

「生前贈与」とは相続前にする贈与のこと

生前贈与とは、贈与する人が亡くなる前に行う贈与のことです。

単に「贈与」と呼ばれるときと内容に変わりはありませんが、“相続を待たず財産を先渡ししておく”という意味合いを強調する場合に「生前贈与」という言葉が使われます。

※相続により財産が移転する場合、財産を持っていた方は「被相続人」と呼ばれ、財産を承継する方は「相続人」と呼ばれる。一方の生前贈与においてはそれぞれ「贈与者」と「受贈者」と呼ばれる。

 

遺贈との違い

遺贈とは、遺言書に記載した“遺言の効力として財産が譲り渡される”ことを意味します。

遺贈も相続による財産の承継とは異なり、財産の元所有者の意思が反映されています。相続であれば相続人たちが話し合って好き勝手に財産を分割していくことができますが、遺贈においては遺言書を作成する本人が取得者や分割方法を指定していくのです。

そこで遺贈も生前贈与も「本人(財産の所有者)の意思に従って財産が移転する」という点で共通していますが、遺贈と異なり生前贈与には次に挙げるような特徴があります。

 

  • 遺言書の作成が不要
  • 契約が必要で1人だとできない
  • 勝手に撤回できない
  • 亡くなる前に財産を移転できる
  • 節税効果が高い

遺言書の作成が不要

生前贈与は贈与契約が有効に成立していればいいため、紙で作成する文書は必ずしも必要ではありません。口約束であっても一応は有効に契約が成立します。

しかし遺言書はそういうわけにもいきません。

有効な遺言を残すには、確実に遺言書という書面を作成しないといけないのです。しかも作成方法についても法律で決められています。比較的自由な形式で作成ができる「自筆証書遺言」であっても、全文を自書すること、日付と氏名も自書により明記すること、押印をすることなどが求められています。「公正証書遺言」であれば公証役場で手続を行う必要があり、証人の準備、手数料の支払いなども求められます。

契約が必要で1人だとできない

生前贈与は贈与契約の成立を前提に実行されますので、契約相手の存在が欠かせません。遺言書のような書面を作成する必要はありませんが、「当事者の合意」が必須となります。

遺贈であれば一方的な意思表示でかまいません。誰に何を与えるのか、相手方や家族などの同意を得る必要はありません。

勝手に撤回できない

遺贈は遺言者の一方的な意思表示であることから、勝手に作成するだけでなく、勝手に撤回をすることもできます。作成した遺言書を破棄したり、作成済みの遺言書に訂正を加えたり、あるいは上書きする形で遺言書を作成して一部遺言を撤回することも可能です。

一方の生前贈与は相手方との合意により成立していますので、勝手に撤回をすることは原則として認められません。これは贈与に限った問題ではなく、契約一般に共通するルールです。

ただし贈与契約においては受贈者が無償で財産を譲り受け、一方的に利益を受ける契約内容が多いため、契約解除について要件が緩和されています。

 

書面によらない贈与は、各当事者が解除をすることができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索 民法第550条

このように、書面を作成することなく交わした生前贈与の契約については、贈与者・受贈者どちらからでも好きに解除ができます。そこで突然解除されるリスクを排斥するには、贈与契約書を作成しておくことや、さっさと履行してもらうことが望ましいといえます。

亡くなる前に財産を移転できる

生前贈与と遺贈の大きな違いは「財産が移転する時期」にあります。

生前贈与では相続開始前、つまり贈与者が亡くなる前に財産を与えることになります。一方で遺贈は遺言書が効力を発揮することで実行されますので、相続開始後でなければ財産の移転は起こりません。

そこで、早く渡しておく必要のある財産については生前贈与の方が適しているといえます。遺言書に記載した場合は、いつその効力が生じるのかわかりません。数日以内に相続が始まることもあれば、数十年先になって相続が始まることもあります。

また、亡くなる前に財産が移転できることから、贈与者が所有権変更に係る手続に協力できるという利点も得られます。例えば不動産を贈与する場合は必要書類を揃えて登記申請を行う必要があります。所有者が協力してくれればスムーズに登記手続も進められるでしょう。

節税効果が高い

生前贈与の場合は贈与税が、遺贈の場合は相続税が原則として課税されます。

贈与税は相続税を補完する役割を担う税であり、同じ課税価格に対する税負担は基本的に贈与税の方が大きくなる傾向にあります。しかしながら各種控除制度、特例措置などを上手く駆使すれば、お得に贈与をすることも可能です。

例えば贈与税の基礎控除額110万円の枠を使えば、年間110万円までの贈与は非課税で行うことができます。他にも、「相続時精算課税制度」や子どもや孫などに対する「住宅を取得するための資金の贈与」「教育資金の贈与」「結婚や子育て資金の贈与」。配偶者に対する「居住用不動産の贈与」などについても、大きな非課税枠が設けられています。相続税の仕組みと照らし合わせながら上手く贈与をすれば、大きな財産も比較的税負担を抑えて承継してもらうことができます。

 

生前贈与の注意点

生前贈与であれば家族や親族などの関係性を調整しながらより良いタイミングで財産移転を実行することができます。本人が生きているうちに手続も進められ、相続トラブルも避けやすいです。

ただ、自分の財産だからと家族や関係者に一切の相談なく多額の贈与をしてしまうと揉めるおそれがあります。相続人として財産を取得することを期待している方もいるかもしれません。受贈者が多額の財産を得ることに法的な問題がなくても、今後の人間関係が悪化してしまう可能性には留意しましょう。
また、遺産がほとんどなくなってしまうと相続開始後の家族が生活費の負担に耐えられなくなることもあります。

もう1点、課税の問題にも注意が必要です。贈与していた財産であっても、相続開始から遡って7年以内の贈与は相続税の課税対象になってしまいます。このルールがあることによって期待していた節税効果が得られなくなる可能性もあるため、計画的に生前贈与を始める必要があります。節税効果を期待するのであれば、税理士さんとよく相談しながら進めるといいでしょう。