配偶者居住権とは?権利の成立要件や解決できる問題、注意点を紹介
カテゴリ:司法書士コラム
夫婦の一方が亡くなった後も、残された妻や夫がそのまま自宅で長期的に生活を継続することは珍しくありません。
その場合、配偶者のために預貯金などの生活資金も確保しておく必要があります。
しかし、遺産分割の際にこれらをバランスよく分配することは容易ではありません。そこで生活資金の確保を法的に支援するための、「配偶者居住権」という権利が法定されています。配偶者居住権の活用にはどのような利点があるのか、概要や注意点を以下にまとめます。
配偶者居住権の概要
配偶者居住権とは、「自宅として使っていた建物を無償で使用できる権利」のことです。
この権利により、自宅の所有権を子どもなどが相続しても、被相続人の妻や夫は賃料を支払うことなく住み続けることができるようになります。
配偶者居住権の3つの成立要件
配偶者居住権が行使できるようになるのは、次の3つの要件をすべて満たすときです。
①被相続人と法律上の婚姻関係を持つこと
②被相続人が亡くなった時点で配偶者が居住していたこと
③以下いずれかの手段で取得すること
- 遺産分割(相続人間での話し合うこと)
- 遺贈(配偶者居住権に関する遺言があること)
- 死因贈与(配偶者居住権に関する死因贈与契約であること)
- 家庭裁判所の審判(相続人の間で遺産分割の話合いが整わないときの手続)
つまり、内縁関係にある夫や妻にはこの権利は認められませんし、初めから自宅として使用していなかった建物に関しても認められません。
配偶者居住権により解決できる問題
配偶者居住権が設けられる前は、自宅の取得と生活資金の取得を両立することが難しいという問題がありました。
もちろん、すべての方にとっての問題ではありません。現金など生活資金に回せる財産が割合多く残っている場合は心配する必要がない一方で「自宅を取得することで生活資金が得られなくなる」という事態に困るケースもあったのです。
例えば、預貯金3,000万円と自宅3,000万円の相続財産があったとしましょう。
現在の自宅に住み続けるためには遺産分割により自宅の所有権を得る必要があります。
しかし子どもと共同相続する場合、法定相続分に従い分割するのであれば預貯金を取得できなくなってしまいます。
しかし自宅に配偶者居住権を設定することでこの問題を解決できます。
配偶者居住権が2,000万円だとすれば、法定相続分に従って分割しても預貯金1,000万円の取得可能です。
そして子どもは配偶者居住権付きの自宅1,000万円と預貯金2,000万円を取得します。こうして住まいと生活資金が確保できるという仕組みになっています。
配偶者居住権に関する注意点
配偶者居住権の仕組みは残された妻や夫にとってはありがたいものですが、無条件に取得できるものではありませんし、所有権を取得する場合にはない制限もあります。
以下の注意点があることは知っておきましょう。
被相続人にできる対策
まず配偶者居住権を設定するための方法を知っておきましょう。
被相続人が事前に打てる対策としては「遺言書を使って配偶者に遺贈すること」が挙げられます。
あるいは、婚姻期間が20年以上であるのなら自宅自体を遺贈・贈与することで生活基盤を確保することも可能です。
優遇措置として、このとき取得する自宅については相続財産に含めず、相続財産の先渡しにもあたらないものとして扱ってもらうことができます。
相続人に必要な手続
生前に自宅の贈与や遺言書の作成がされていない場合は、遺産分割協議で配偶者居住権の設定を行う必要があります。
ただしこのときは遺産分割協議の基本に則り、相続人全員による同意が必要です。
話がまとまらないときは、家庭裁判所への「遺産分割の審判」の申立てを検討します。
このときの審判にて、「自宅所有者が受ける不利益を考慮した上で、なお配偶者の生活維持のために特に必要である」と認められれば配偶者居住権を得ることができます。
配偶者居住権の登記
配偶者居住権は登記可能です。
登記簿にその権利を記載して一般に公開することで、第三者に対しても権利の主張ができるようになります。
配偶者居住権の付いた自宅が第三者に譲渡されたとき、権利関係をめぐってトラブルが起こる可能性があるのですが、登記をしておけばこうしたトラブルも避けやすくなるでしょう。
そこで、配偶者居住権の取得後はできるだけ早く登記手続を済ませておくべきです。手続は建物の所在地を管轄とする法務局で行います。今後の生活に関わる重大な権利ですので、ミスが起こらないよう、司法書士への依頼がおすすめです。
建物の使用方法等
配偶者居住権の設定により妻や夫は自宅にそのまま住み続けられますが、所有者との関係において「できることとできないこと」「しないといけないこと」を理解しておくことが大事です。
例えば配偶者居住権で「居住建物の無償使用」が認められていますが、所有者の同意を得ずに第三者に貸すことはできません。
この権利を譲渡することも不可です。
また、建物修繕の負担についても配偶者が負っています。住むだけ住んで修繕が必要になったら所有者任せ、というわけにはいきません。ただし修繕にとどまらず増改築が必要になるときは所有者の承諾が必要です。増築・改築については配偶者居住権の範囲外です。
自宅の固定資産税の負担についても注意が必要です。
固定資産税の納税義務者は建物の所有者であるため、税制に従い所有者が納税をしないといけません。しかしながら配偶者には必要費の負担義務が課されていることから、固定資産税の納付後、所有者は配偶者に対して納付額分を請求することが認められるのです。
配偶者短期居住権とは
配偶者居住権とは別に「配偶者短期居住権」も民法で規定されています。
遺言や遺産分割など特定の行為により生じる配偶者居住権に対し、配偶者短期居住権は要件を満たせば自動的に生じるものです。
6ヶ月間という短期に限られますが、配偶者居住権が得られない場合でも自宅に住み続けることが認められます。「急に出て行けと言われても無理でしょう」という事実に根差した制度です。
例えば、配偶者が配偶者居住権を得ることができなかったとしましょう。自宅を相続しない場合は自宅を出ていかなくてはなりません。しかし次の住まいを探すのに時間が必要であることから、一定期間居住する権利を法的に認めています。
厳密には次の期間中、居住する権利を主張できます。
配偶者短期居住権が有効な期間 | |
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遺産分割をした場合 | 次のいずれか遅い日まで ・自宅の帰属先確定から6ヶ月経過する日 ・相続開始から6ヶ月経過する日 |
その他の場合 | 建物相続人からの配偶者短期居住権消滅の申し入れから6ヶ月経過する日まで |
なお、自宅の使用方法、修繕や増改築、費用の負担に関しては配偶者居住権と同様です。
ただし登記をすることはできませんので、自宅が第三者に譲渡されてしまうと居住権の主張はできなくなってしまいます。
この場合において損害が生じたときは、自宅を譲渡した方に対して損害賠償請求を行うことで回復を図ることになるでしょう。