大原司法書士事務所

相続開始後の3つの選択肢

相続開始後の3つの選択肢

カテゴリ:司法書士コラム

遺産相続をそのまま受け入れるだけでなく、これを拒絶することも可能です。また、プラスの財産とマイナスの財産の把握が難しいときは部分的に受け入れるというやり方もあります。

ここではこれら①単純承認、②相続放棄、③限定承認について紹介し、それぞれの効力やメリット・デメリットを解説していきます。相続制度について詳しくない方も、まずはこの3つの選択肢があることを押さえておきましょう。

 

原則は「単純承認」

単純承認とは、相続を無限に受け入れることをいいます。

“無限に”とは、引き継ぐ資産や肩代わりする義務について「〇〇円まで」といった形で制限がなされないことを意味します。

(単純承認の効力)
第九百二十条 相続人は、単純承認をしたときは、無限に被相続人の権利義務を承継する。

引用:e-Gov法令検索 民法920条


この単純承認はもっとも基本的な相続方法であり、多くのケースではこの単純承認がなされています。というのも他の相続放棄や限定承認では手続が必要とされるのに対し、単純承認は、何も手続をしなければこれを選択したことになるためです。

単純承認のメリット・デメリット

単純承認のメリットとデメリットは下表の通りにまとめられます。

単純承認のメリット

・被相続人(亡くなった方のこと。)の財産をすべて取得できる
・手続を行う必要がない

単純承認のデメリット

・被相続人の負債もすべて取得してしまう
・相続後に借金の存在が明らかになるなど想定外のリスクがある

 

相続リスクが大きいときは「相続放棄」

相続放棄とは、相続人ではなくなるための手続です。

厳密にいうと、放棄を行った時点からではなく、相続が始まった当初から「相続人にはなっていなかった」という効力を生じます。

(相続の放棄の効力)
第九百三十九条 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

引用:e-Gov法令検索 民法939条


相続放棄には家庭裁判所での手続を要します。被相続人の死亡及び自分が相続人であることを知ってから3ヶ月以内に“放棄をしたい”旨の申述が必要で、これが認められることでようやく相続放棄が完了します。

状況によっては家庭裁判所が相続放棄を認めてくれないこともある点は留意しておきましょう。

相続放棄のメリット・デメリット

相続放棄のメリットとデメリットは下表の通りにまとめられます。

相続放棄のメリット

・相続によるリスクをすべて排斥できる
・のちに明らかとなった債務についても責任を負わない

相続放棄のデメリット

・一切の資産について承継ができない
・申述の手続が必要

 

遺産の評価が難しいときは「限定承認」

限定承認とは、引き継ぐ義務を限定する相続の方法をいいます。
相続した債務についての弁済責任が「相続人が取得したプラスの財産の範囲」に制限されますので、相続に伴う経済的リスクが抑えられます。

(限定承認)
第九百二十二条 相続人は、相続によって得た財産の限度においてのみ被相続人の債務及び遺贈を弁済すべきことを留保して、相続の承認をすることができる。

引用:e-Gov法令検索 民法922条


ただし、限定承認をするには相続放棄同様に3ヶ月以内の手続が必要で、しかも相続人の全員が共同でこれを行わなければいけません。相続人のうち1人だけが限定承認をすることはできません。

また、責任が限定される反面、財産関係の清算処理を行う必要があり、手続上の負担が大きいという難点を持ちます。

限定承認のメリット・デメリット

限定承認のメリットとデメリットは下表の通りにまとめられます。

限定承認のメリット

・債務の承継に関して予想外のリスクを回避できる
・遺産を手放さずに済む

限定承認のデメリット

・申述の手続が必要
・申述後、財産関係の処理をするのに手間がかかる

 

3つの手続を比較

上記3つのうちどれを選択すべきか、とても重大な決断ですので司法書士など法律・相続制度に強い専門家に相談することをおすすめします。

なお一般的には、資産の方が大きいことが明らかなら「単純承認」の道を進むことになりますし、逆に負債の方が明らかに大きいのなら「相続放棄」を検討することになるでしょう。

もし遺産の調査を進めてもなかなか亡くなった方の財産関係について全貌を明らかにできないときは、「限定承認」も検討します。なお、そういう場合は家庭裁判所に対して3カ月間の期間を延長してもらうよう申し立てることもできます。
遺産調査の進み具合がキーとなってきますので、この遺産調査から専門家に任せておくと良いでしょう。

 

相続開始後は遺産評価を進めることが大事

遺産の内容を調べ、各財産の評価を行うことで、相続に対するリスクが判断できるようになります。

調査対象となるのは被相続人が持っていたほぼすべての財産ですが、とりわけ重要な存在が次に掲げる4種の財産です。

  • 土地
  • 家屋
  • 有価証券
  • 現金預金

これらは比較的相続財産の総額を占める割合が高い財産です。特に土地は、もっとも大きな割合を占めていることから漏れのないように調べておかないといけません。

土地

家屋

有価証券

現金預金

その他

29,452億円
(36.1%)

3,955億円
(4.9%)

13,888億円
(17.0%)

26,029億円
(31.9%)

8,244億円
(10.1%)

※()内は、相続財産の合計金額「81,568億円」のうち各財産が占める割合。
参照:東京国税局「令和4年分相続税の申告事績の概要」