公正証書遺言の効力とは?他の遺言書との違いやメリットについて
カテゴリ:司法書士コラム
公正証書遺言は公証役場で作成する遺言書で、自筆証書遺言に比べて作成手続きが厳格です。しかしながら遺言の効力が強くなるというものではなく、その特徴は、無効になるリスクや紛失等のリスクが下げられるという点にあります。
こうした他の遺言書との違いやメリットに着目して、公正証書遺言について紹介します。
作成方法による効力の差はない
公証人に遺言内容を口述して作成をしてもらう「公正証書遺言」、遺言者自身が手書きで作成する「自筆証書遺言」、作成した遺言書の存在についてのみ公証を受ける「秘密証書遺言」などの遺言書があります。
それぞれ作成要件に違いはありますが、法的に有効であればいずれも効力は同じです。より大きな強制力を持ったり遺言で指定できる事柄が増えたりすることもありません。
遺言書の効力が及ぶ事柄
公正証書遺言でもその他の遺言書同様、次の事柄について遺言の効力が及びます。
相続分の指定 | 法定相続分を超える、あるいはこれに満たない割合で相続することを指定できる。例えば「〇〇には、全財産を相続させる。」「〇〇には、財産のうち3分の2を相続させる。」などと指定することが可能。 |
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遺産分割の禁止 | 遺産分割協議で揉める可能性が高いときなどに、遺産分割を禁ずることもできる。ただし相続開始から5年以内に限る。 |
遺贈 | 相続人以外の第三者に財産を譲与(遺贈)することも可能。 |
非嫡出子の認知 | 婚姻をしていない女性との間にできた子について、自分の子であると法的に認める手続きが遺言でできる。認知されることで当該子は相続人になることができる。 |
未成年後見人の指定 | 親権を持つ人がいなくなる場合に備えて、未成年者の監護や財産管理、法律行為などをサポートする未成年後見人を指定することもできる。 |
相続人の廃除 | 生前にその人物から虐待を受けていたなどの事情があるときは、相続する権利を遺言により剥奪することができる。 |
遺言執行者の指定 | 遺言内容を実現するための行為を行う遺言執行者を定めることもできる。遺言執行者は財産目録を作成したり名義変更をしたり、相続登記をしたりする。 |
公正証書遺言を選ぶメリット
遺言で実現できることに差はありませんが、公正証書遺言ならではのメリットもいくつかあります。
形式上の不備は生じにくい
公正証書遺言の1つのメリットとして「形式上の不備が起こりにくいこと」を挙げることができます。
作成作業には公証人が対応するのですが、この公証人は裁判官や検察官、弁護士としての経験を持つ法律家です。豊富な実務経験も持っていますし方式のミスで遺言が無効になるリスクはほとんどありません。そのため自筆証書遺言や秘密証書遺言に比べると安全で確実な方法であるといえるでしょう。
遺言者の手書きが不要
自筆証書遺言は遺言者が1人で作成できますし、比較的手軽といえます。ただ、「本文はすべて手書きでなければならない」というルールがありますので、病気などが原因で手書きが難しい方には選択することができません。
一方の公正証書遺言では遺言内容を考えてそれを公証人に口で伝えればいいのです。署名に代える措置も認められています。もし公証役場まで行くことが難しくても、公証人に出張を依頼して自宅や介護施設などで作成することが可能です。
検認の手続きが不要
自筆証書遺言の場合、相続開始後に原則として「検認」の手続きが必要です。家庭裁判所で遺言書の現状を確認してもらう作業が発生するのです。
※法務局の保管制度を利用していれば検認が不要。
一方の公正証書遺言は、原則としてこの検認が不要です。相続開始後に相続人が家庭裁判所で手続きを行う必要がなく、速やかに遺言の執行に取り掛かることができるでしょう。
安全に保管される
公正証書遺言の場合は、必ず原本が公証役場で保管されます。
他の遺言書は遺言者自身で保管場所や保管方法について考える必要があり、適切に保管し続けることができなければせっかく作成した遺言書を紛失したり改ざんされたりする可能性が出てきます。
公正証書遺言にそのリスクがないのは大きなメリットといえるでしょう。
また、震災などによって原本が消滅することのないよう、遺言書の電子データを作成することで二重で原本を保存する体制が構築されています。そして遺言書のデータは全国の公証役場からアクセスできる管理システムに登録されるため、どこで作成した遺言書であっても全国からその有無を調べることができます。
遺言通りにならないケースもある
公正証書遺言であれば無効になる可能性をかなり下げられますが、「遺言通りにならないケースがある」ということは知っておいてください。
例えば次のケースです。
- 遺言書で指定された内容とは別の分割方法によることに関して、「相続人全員の合意」があるとき
- 相続人の「遺留分を侵害」しており、遺留分権利者がほかの相続人や受遺者に対して遺留分侵害額請求をしたとき
- 遺言書の有効性について争いが生じて、遺言書作成時点での遺言者に「遺言能力がない」と認められたとき
公正証書遺言でも常に思い通りになるとは限りませんので、この点に注意しながら遺言内容や作成方法を考えましょう。