大原司法書士事務所

任意後見人の選任で見るべきポイントとは? ふさわしくない人の見極め方や選任のルールについて

任意後見人の選任で見るべきポイントとは? ふさわしくない人の見極め方や選任のルールについて

カテゴリ:司法書士コラム

任意後見制度を利用するには、後見を頼もうとする本人が任意後見人となる人物を探し、その人物と契約を交わすことが前提として必要です。そして安心して将来のことを任せるためには、契約相手が任意後見人としてふさわしい人物であることを見極めないといけません。当記事では、その選任にあたって見るべきポイントを紹介します。

 

任意後見人選任のルール

任意後見人選任の基本的なルールとしてまず知っておきたいのは、「任意後見人となる人物に、特別な資格は必要ない」ということです。そのため被後見人本人の家族・親族、友人なども任意後見人になることが可能です。

当然、司法書士や弁護士、社会福祉士などの実務家になってもらうこともできますし、法人が任意後見人になることもできます。
法人を任意後見人として選任する場合のよくある候補として、社会福祉法人や福祉関係の公益法人、信託銀行等の営利法人が挙げられます。これら以外のどんな法人でも本人が望むのなら選任は可能です。

複数人を選任することもできる

誰を任意後見人とするのかは、任意後見契約を締結する本人の判断に委ねられており、対象となる人物の数についても1人に絞る必要はありません。複数人の任意後見人を選任することもできます。

複数人を選任する場合、2つの手法があります。

1つは、「1個の契約で複数人を選任する方法」です。
任意後見人の権限に関して共同行使を定め、任意後見人による恣意的な権限行使を防ぐ効果が期待できます。1人に任せることに不安があるという場合は、この方法により複数人の選任を検討しても良いでしょう。
ただし不可分な契約であるため、任意後見受任者の1人に不適任の事由(詳しくは後述。)がある場合、他の受任者に問題がなくても、任意後見監督人を選任することができず任意後見制度を利用できなくなってしまいます。

もう1つは、「個別の任意後見契約で複数人を選任する方法」です。
それぞれの任意後見人は単独で権限を行使することになり、別の受任者が不適任であってもその影響を受けません。なお、この場合はさらに①同じ事務をそれぞれが単独で行えるケースと、②事務分掌するケース、に分けられます。

却下される人

任意後見人になるために特別の資格は必要ありませんが、民法には「後見人の欠格事由」が列挙されています。

(後見人の欠格事由)
第八百四十七条 次に掲げる者は、後見人となることができない。
一 未成年者
二 家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人又は補助人
三 破産者
四 被後見人に対して訴訟をし、又はした者並びにその配偶者及び直系血族
五 行方の知れない者

引用:e-Gov法令検索 民法第847条

そのため18歳未満の子どもや自己破産の手続を進めている者などを対象に選任することはできません。

任意後見人の選任でチェックすべきポイント

任意後見人としてよく選ばれるのは、本人の子どもや配偶者、兄弟姉妹などの親族です。その他、NPO法人や福祉団体などの法人、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門家も選任されることがあります。

個人から選任する場合は、次の点をチェックすることが大事です。

任意後見人選任のチェックポイント

経済力

本人の財産の扱いを任せることになるため、不正に財産に手を付けられるおそれがある。そこで、経済力があってお金に困っていない人である方が財産管理においては信頼ができる。

年齢

本人の判断能力の衰えを危惧して委任するのが本来の目的であり、任意後見人も判断能力が衰えてしまうと契約を交わす意味がなくなる。こうしたリスクを下げるため、本人より若い人を選任する方が望ましい。

管理能力

人として信頼できることに加え、適切に財産を管理できる能力が求められる。そこでお金のことや不動産などの財産に関して知識を持っている人の方が望ましい。

住所

任意後見人は本人の介護まで行う必要はないが、本人の生活状況について把握できていることが望ましい。そのため滅多に顔を会わさない人物より、物理的にも距離の近い人物である方が望ましい。

経歴

任意後見人としての能力を図ることは難しいが、実績など、経歴を見て推測することができる。「過去、任意後見人になったことがある」「お金にまつわる仕事をしている」などをチェックする。

 

経済力があり、適切な財産管理が期待できる人物。面倒見も良く、過去にこれといった問題を起こしていないのであれば、比較的任意後見人としてふさわしい人物といえるでしょう。

これに対し、「自分の考えを頑固に通そうとする」「自分の利害を最優先に考える」「自分より高齢」「責任感がない」「多額の借金を負っている」といった人物は任意後見人としてふさわしくありません。

法人を任意後見人とするときのチェックポイント

身近に、任意後見人としての仕事を安心して任せられる個人が見つからない場合、法人への依頼も視野に入ってくるでしょう。「任意後見の期間が長期にわたるかどうか」「財産関係の複雑さ」も関わってきます。

ただし法人への依頼に関しては次の点をチェックする必要があります。

  • 担当者の変更
    法人の場合でも結局は従業員である個人が事務を行う。担当する従業員が入れ代わる可能性もあるが、できるだけ固定の担当者がついて、法人であっても顔の分かる人に対応してもらうことが大事。固定の担当者を付けて受任してくれるかどうかを事前にチェックしておく。
  • 利害関係の有無
    本人との利益が相反するおそれのある法人はふさわしくない。入所施設を運営する法人を選任する場合、裁判所から不適格と評価される可能性があるため、任意後見契約以外で本人の生活に関わっているかどうかなど要チェック。
  • 倒産の可能性
    営利法人の場合は特に倒産の可能性も考える。委任した法人が倒産してしまうと、大きな損害を被るおそれがある。倒産までいかなくても、預けた資産が流用されてしまうリスクもあるので、今後もその可能性が低いと思われる法人を選任する。

法人には法人の問題がありますので、任意後見人死亡のリスクがないという点を取り上げて「任意後見人としてふさわしい」と安易に判断してはいけません。

担当となる人物も頻繁に入れ替わってしまっては適切な事務も期待できませんし、その意味では特定の人物が対応してくれる実務家への依頼も候補に挙がってくるでしょう。司法書士事務所や弁護士事務所などであれば、顔が見える上、能力面でも問題がなく安心して依頼することができます。