大原司法書士事務所

遺産分割のための不動産評価~相続税の計算とは異なる価額の調べ方について~

遺産分割のための不動産評価~相続税の計算とは異なる価額の調べ方について~

カテゴリ:司法書士コラム

相続が始まると、「相続税の計算」と「遺産分割」という2つの場面で不動産の評価が必要になります。
相続税の計算では課税の公平性を重視して画一的な評価方法が定められていますが、遺産分割では相続人間の合意を目指すため、より柔軟な評価方法を選択することができます。
当記事では特に「遺産分割のための不動産評価」について言及し、どのように評価を行うのか、相続税評価額とはどのように違うのかを解説していきます。

 

遺産分割協議の前に不動産の評価が必要

相続開始後、相続人が複数いるときはその全員で遺産分割協議を行うことになります。そしてその前提として、遺産の1つである不動産について価額を把握しておく必要があります。

たとえば被相続人がマンション1棟と実家の土地建物を所有していた場合には、各物件についてそれぞれ評価を行うことになり、具体的な金額が把握できると遺産分割協議もスムーズに進められるようになります。
反対に、各物件の価額がまったくわからなければ相続人間の利益のバランスを調整することが困難となり、現金や預貯金などその他の遺産の取得分についても協議が進められなくなってしまいます。

預貯金や上場株式などの金融資産は額面がはっきりしていますが、不動産は評価額を把握するのが簡単ではありません。相続手続きにおいて「不動産の評価」は避けて通れない重要な過程の1つといえるでしょう。

 

「相続税の計算」と「遺産分割」をするときでは評価方法が違う

不動産の評価を行う場面は、①相続税の計算をするときと②遺産分割をするときの大きく2つです。①と②で計算方法が異なるのは、それぞれ不動産評価に対する目的と考え方に大きな違いがあるためです。

評価方法の比較

まず「相続税計算のための不動産評価」についてですが、こちらは国税庁が定める財産評価基本通達に基づいて行うのが原則です。この評価方法には以下の特徴があります。

  • 路線価方式または倍率方式を使用する
  • 評価額は一般的に市場価格よりも低く設定される
  • 画一的で簡便な評価方法を採用する

たとえば、土地の評価だと原則として路線価方式が用いられ、路線価に土地面積を乗じて計算します。建物に関しては固定資産税評価額をそのまま使用することが決められています。

一方、「遺産分割のための不動産評価」についてもっとも重視されるのは“相続人間の合意”です。次のような特徴があることを覚えておきましょう。

  • 原則として「実勢価格」(時価)を基準とする
  • 相続人全員の合意があれば、相続税評価額や固定資産評価額等ほかの評価方法も採用可能
  • 評価方法に法的な制約はない

一般的な評価方法は存在するものの、法令で制限がかけられているわけではないため評価方法に対する柔軟性が高いといえます。

評価方法が異なる理由

相続税については、全国の納税者間での“課税の公平性”を確保することが重視されます。そのため、財産評価基本通達に基づく画一的な評価方法が採用されており、路線価方式や倍率方式など、定められた計算方法に従って評価額を算出しないといけません。
相続人独自の評価方法を認めてしまうと、容易に本来より安く見積もることもできてしまうからです。

遺産分割については、そもそも税金の申告義務のように法令で「遺産分割協議をしないといけない」と定められているわけではありません。わざわざ協議を行い各自の取得分を定めるまでもなく、自動的に法定相続分で所有権を得ることとなります。
これに対し相続人が任意に分割方法を決めたいときに取る手続きが遺産分割協議ですので、上述のとおり、“相続人間の合意”があれば自由な形で遺産を分けてもかまいません。

 

実勢価格を調べる方法

「遺産分割では相続人の納得があれば良い」とはいっても、実務上は将来的なトラブルを防ぐためにもきちんと不動産の評価を行うことが重要と考えられています。

そして不動産の評価は原則として実勢価格を基準としますので、「市場だと当該物件はいくらで取引されることになるのか」という点に着目します。代表的な金額を調べる方法としては、不動産業者に査定を依頼する方法と不動産鑑定士に鑑定を依頼する方法の2つが挙げられます。

不動産業者に査定を依頼する

多くの場合、不動産業者に査定を依頼することになります。

オンライン上で依頼し、必要な情報を入力してスピーディに結果を得ることも可能ですが、簡易な方法だと精度が劣ります。より厳格に評価をしてもらいたいときは実際に物件を訪問してもらい、より詳細(建物の状態、内装や設備、周辺環境など)までチェックしてもらったうえで査定結果を出してもらうと良いでしょう。

なお、この査定では「周辺の類似物件における売却実績や市場動向」をもとに評価が行われます。特にマンションや土地の査定でこの手法が用いられる傾向にあり、ほかの類似事例に対し補正・修正を加える形で価額を算出することになります。

不動産鑑定士に鑑定を依頼する

「より厳格に評価をしてもらいたい」「不動産業者間の査定価格に大きな開きがあってどちらが正しいのかわからない」など、前述の方法では評価ができない・納得がいかないというケースでは不動産鑑定士に対応してもらいます。

不動産鑑定士は、市場での類似物件の取引事例を比較するほか、「当該物件を新たに建築することになった場合の費用(再調達原価)」をもとに評価を行うケースもあります。こちらは主に建物の評価に用いられることがあり、経年劣化による減価なども考慮して金額の計算が進められます。
また、賃貸マンションなどの収益物件であれば「当該物件が将来生み出す利益」をもとに評価を行うこともあります。

状況に応じて適切な評価方法を選択、あるいは組み合わせる形で鑑定を進めてもらうことができ、より専門的かつ公正な評価が可能となるでしょう。商業施設や工場など特殊な物件の評価にも対応してもらえます。

ただし、コストと時間がかかってしまうという難点もあります。
一般的には2,30万円、場合によってはそれ以上のコストが発生する可能性があることも覚えておきましょう。時間については、少なくとも1週間、場合によっては1ヶ月程度を要することもあります。

 

遺産分割において価額を定める手続き

以上で説明した方法によって具体的な金額を算出することができても、遺産分割において確定的に評価額が定まったことにはなりません。根拠や客観性もありますし、査定・鑑定を受けたのならその金額で遺産分割が進められる可能性は高くなりますが、当事者間の話し合いにおける合意がなくてはなりません。

そこで以下のポイントを押さえて遺産分割協議に臨みましょう。

  • 相続人全員が参加すること
    • すべての相続人が協議に参加し、意思表示をすることが大事。
    • 未成年者については親権者、あるいは特別代理人を家庭裁判所で選任してもらう。
  • 情報を共有すること
    • 財産リストや不動産の評価額などを全員で確認し、同じ情報を共有する。
    • 各相続人の希望や事情についても、互いに理解し合うことを目指す。
  • 専門家を活用すること
    • 司法書士など相続に精通した専門家に相談することでリスクを回避しやすくなる。
    • 合意内容をまとめた遺産分割協議書の作成も依頼できる。

不動産は遺産の中でも割合大きな価額を持つ財産です。慎重に評価を行い、トラブルなく円滑に相続手続きが進められるよう努めましょう。