大原司法書士事務所

成年後見制度と家族信託を使い分ける方法

成年後見制度と家族信託を使い分ける方法

カテゴリ:司法書士コラム

高齢化社会が進むとともに、認知症や判断能力の低下に備えた財産管理の方法として「成年後見制度」と「家族信託」という2つの選択肢が注目を集めています。この2つの制度は似ているようで異なる特徴を持ち、状況に応じた使い分けが必要ですので注意をしないといけません。

 

成年後見制度と家族信託の基本

成年後見制度は、知的障害・精神障害、認知症などによって判断能力が不十分な方を法的に保護・支援するための制度です。家庭裁判所に申し立てを行い、裁判所が選任した「後見人」が本人に代わって財産管理や契約などの法律行為を行います。

※本人が直接契約を交わしたうえで開始する「任意後見制度」もあるが、ここでは利用者数が特に多い「法定後見制度」について主に言及する。

《 成年後見制度の特徴 》

  • 家庭裁判所が後見人を選任し、監督する
  • 判断能力が著しく低下した後でも利用できる
  • 本人の財産を守ることが主な目的
  • 専門家(弁護士・司法書士など)が後見人になることも多い

一方家族信託とは、家族に財産を託して契約に従って管理運用する仕組みのことです。財産を託す「委託者」、託されて管理運用の実務にあたる「受託者」、信託財産から利益を受ける「受益者」の3者が登場するのですが、家族信託においては認知症対策の必要な親が委託者兼受益者となり、子どもなど委託者より若い家族を受託者とするケースが一般的です。

《 家族信託の特徴 》

  • 家族内で財産管理を完結できる
  • 本人の判断能力があるうちに契約を結ぶ必要がある
  • 信託契約の範囲内で柔軟な財産管理が可能
  • 家庭裁判所の関与がない

 

両制度の主な違い

成年後見制度と家族信託の違いは、次のようにまとめることができます。

 

 

成年後見制度

家族信託

本人の判断能力

判断能力が著しく低下した後でも利用できる。

本人には、信託契約を有効に交わすだけの判断能力が必要。認知症の兆候があっても状況によっては可能であるが、家族間で揉めるリスクもある。

財産管理の柔軟性

「本人を守るための制度」という性質上、財産を減らすリスクのある積極的な資産運用は原則として認められない。

信託契約で定めた範囲内で比較的自由な財産管理が可能。不動産の売却や賃貸、金融資産の運用なども可能。

管理者の選定と監督

家庭裁判所が後見人を選任するため面識のない専門家が就任する可能性があり、後見人との関係に悩むケースもある。

委託者自身が信頼できる人を受託者として選ぶことができる。ただし知識・経験不足で問題が起こる可能性もある。

費用面の違い

申立費用のほか、専門家が選任されたときは月額数万円程度、後見人への報酬が発生する。

専門家への相談料、公正証書作成費用などの初期費用がかかる。家族が受託者となる場合は無償とすることもあるが、契約で定めたときは継続的な費用が発生する。

 

成年後見制度が適しているケース

成年後見制度が適しているケースとしては、以下が挙げられます。

  • すでに判断能力が低下している
    ・・・完全に判断能力を失った後では家族信託は利用できないため、この段階では成年後見制度しか選択肢がない。
  • 信頼できる身近な人がいない
    ・・・財産管理を託せる身近な人がいない場合は、専門家を後見人として選任してもらえる成年後見制度が適している。
  • 財産の保全・保護が主な目的
    ・・・財産の減少リスクを避け、保全することが主目的であるときは、家庭裁判所の監督下で管理される成年後見制度が適している。

制度の利用に本人の法律行為を要する場合、すでに認知症が進行してしまっている方だと利用ができません。この状況下においては成年後見制度の方が向いているというより、こちらを利用するしかありません。

 

家族信託が適しているケース

一方で、家族信託が適しているケースとして以下が挙げられます。

  • 判断能力があるうちに準備できる
    ・・・判断能力がある段階から準備を始められる場合、家族信託も選択肢に入ってくる。
  • 信頼できる家族がいる
    ・・・親の代わりに財産管理ができる子どもなどがおり、その受託者となる方との信頼関係ができているのであれば、家族信託が機能する。
  • 柔軟な資産運用を期待する
    ・・・収益不動産の管理や売却、金融資産の運用など、柔軟な財産管理を望む場合には家族信託が適している。

財産を増やすための運用をしてもらいたいなら、成年後見制度は向いていません。リスクを伴う行為だと認められない可能性があるためです。一方で家族信託の場合はリスクを伴う投資でも実行可能ですので、特に収益性のある物件を持っているなら家族信託も前向きに検討すると良いでしょう。

また、預金口座を写して信託財産に組み入れておけば、委託者が亡くなったとしても口座凍結によるトラブルを回避することができます。

 

制度の併用も要検討

家族信託と成年後見制度は、必ずしもどちらか一方しか利用できないということではありません。「家族信託で運用するのに適した財産については早めに信託をしておき、生活費の確保や生きるために必要な法的支援については成年後見制度で支援を受ける」といった形で併用することも可能です。