大原司法書士事務所

家族信託の開始から終了までの流れを5つのステップで解説

家族信託の開始から終了までの流れを5つのステップで解説

カテゴリ:司法書士コラム

家族信託は財産の管理や運用を家族に任せる仕組みであり、認知症対策や相続トラブルの解決策として注目されています。当記事では、家族信託の基本的な手続きの流れを5つのステップに分けて解説していますので、「家族信託ってどうやって始めるのだろう」と疑問をお持ちの方はぜひ参考にしてください。

 

ステップ1家族信託開始についての話し合い

家族信託は、信頼できる家族に財産の管理・処分を任せる制度ですが、その手続きは複雑で家族間での十分な話し合いが重要となります。
家族信託の目的や内容について家族でしっかりと話し合い、合意形成を図りましょう。

家族とは何を話し合うべき?

家族信託を開始するにあたって、家族間で以下の項目について話し合い、共通認識を持っておきましょう。

  • 家族信託の目的
    • 老後の生活資金の確保、認知症対策、事業承継、相続対策など、目的を明確にする。
    • 例)将来、認知症になった場合に備え、財産管理を子どもに任せたい。
  • 信託する財産
    • 不動産、預貯金、株式など、具体的に運用を任せる財産を特定。
    • 例)自宅と預貯金を信託財産とする。
  • 受益者について
    • 誰が信託による利益を受けるのかを明確にする。
    • 例)受益者はひとまず親(委託者自身)とし、一定時点で子どもとする。
  • 受託者について
    • 誰に財産の管理・処分を任せるのかを明確にする。
    • 管理や処分に関する権限についても決める。
    • 例)長男を受託者とする。

まずは「家族信託を始めようと思う」という旨を伝え納得をしてもらうことが重要です。そのうえで、上記のような詳細なルールを決めていきましょう。
なお、家族信託を始めるにあたって家族全員の同意は不要で、契約当事者となる方の同意さえあれば家族信託は始められます。しかしながら、家族信託が始まったあとで揉めてしまい家族仲が悪化する危険性もあるため、できるだけみんなが納得したうえでスタートすることが望ましいです。

専門家は必要?

家族信託の開始にあたって、専門家への依頼は必須の要件ではありません。しかし、法律や税務の専門知識が必要となるため、家族だけで進めるのではなく司法書士や税理士などの専門家を活用することが一般的にも推奨されています。

費用は発生しますが、専門家がいると以下の点でサポートが受けられるようになります。

  • 家族信託の設計
    ・・・家族の状況や目的に合った信託内容を検討し、アドバイスを提供。
  • 信託契約書の作成
    ・・・法的に有効で安全性の高い信託契約書を作成。
  • 名義変更などの手続き
    ・・・信託財産の名義変更などの手続きを代行する。
  • トラブルの予防
    ・・・家族間で起こりやすいトラブルをあらかじめ想定して、これを予防するためのアドバイスを提供。

 

ステップ2信託契約書の作成

信託契約書は、家族信託の根幹となる重要な書類です。家族信託の目的や内容、関係者の権利義務などを明確に記載し、将来のトラブルを防止。円滑な信託運営の実現を目指しましょう。

受託者は誰にするといい?

受託者は、「委託者から信託財産の管理・運用を任される人」のことです。信頼できる家族を選ぶことが前提で、以下の点も考慮しましょう。

 

受託者を選ぶときに見るべきポイント

責任感、誠実さ

受託者は善良な管理者としての注意義務を負い、信託財産を適切に管理・運用する責任があるため、その責任を適切に話すことができないといけない。

事務処理能力

信託財産の管理・運用に伴いさまざまな事務処理が発生する。そのため的確に事務処理が遂行できるスキルが求められる。

経済力

受託者による不正行為にも気を配る必要がある。受託者に信託財産に係る権限が託されるため、私的な消費などをしないよう、受託者が経済的に安定していることも重要。

時間的な余裕

信託財産の管理・運用には、ある程度の時間が必要。時間的余裕がある人を選ぶ方が安心。

年齢

委託者自身の判断能力低下を危惧して家族信託を始めるのであれば、加齢によるリスクを回避するため委託者より若い年齢の方を受託者に設定すべき。

 

上記を考慮し、家族内・親族内でもっとも適任と思われる人を受託者に選びましょう。

契約書には何を記載する?

信託契約書には、「信託財産のこと」「信託期間のこと」「受託者の権限や義務」「信託報酬のこと」などを具体的に記載しましょう。

将来のトラブルを防止するために、可能な限り詳細に、明確に記載することが重要です。また、必須ではありませんが信託契約書は公正証書として作成しておくべきです。これにより少しでもトラブルが起こるリスクを下げられますし、口座開設時など、各所での手続きも進めやすくなります。

 

ステップ3信託財産の名義変更

家族信託が始まると、当初委託者の所有物であった信託財産の所有権も受託者へと移ります。このとき不動産など一定の財産については別途手続きが必要となりますし、その財産を適切に管理するための専用口座も必要となります。

信託口口座とは?

家族信託を始めるときは「信託口口座」を作りましょう。

信託口口座とは、信託財産である金銭を管理するための専用の口座のことです。単なる口座の使い分けとは異なり、信託口口座は客観的にも「信託に使われている口座である」ということがわかるようになりますので、より適切に信託財産と受託者個人の財産を区分できるようになります。

不動産の名義変更はどうやってする?

不動産に関しては、相続や売買をしたとき同様に、登記申請により名義変更を行います。

手続きは法務局で行い、その際、信託契約書や各当事者の身分証明ができる書類などを準備しましょう。委託者や受託者の方たちで対応しても法的に問題はありませんが、特に不動産は財産的価値も大きいですし不備があったときにリスクが大きいため、司法書士にご依頼ください。

 

ステップ4信託財産の管理・運用の開始

信託財産の名義変更が完了したら、いよいよ受託者による信託財産の管理・運用が始まります。

ここからの作業は受託者が担います。以下の点に注意しながら、契約に従い適切に職務を遂行しなくてはなりません。

 

《 受託者が特に注意すること 》

  • 自分の財産を管理するのと同じように、注意深く、責任を持って管理・運用する。
  • 信託財産と自己の財産が混同することのないよう、明確に区別して管理する。
  • 受益者に対して、管理・運用状況を定期的に報告する。
  • 信託契約書で定められた権限を超えて信託財産を処分しない。
  • 自己または第三者の利益のために信託財産を処分したり、運用したりしない。

 

委託者や受益者は、受託者を信頼しているとはいえ、日々の業務内容や報告内容をしっかりとチェックするようにしてください。不正行為がないにしろ、ミスに気付くこともありますし、状況が把握できることで的確な指示を出せるようになります。

成年後見制度などと違って、家族信託には家庭裁判所等公的な機関による監督がなされない、という特徴があり、当事者によるチェックがより重要になります。

 

ステップ5家族信託の終了

信託契約書で定められた期間が満了した場合や、信託契約書に定められた終了事由が発生した場合に家族信託は終了します。

信託終了後の財産はどうなる?

終了後は、「信託契約書に定められた方法」で信託財産が分配されます。

例えば次のような分配方法が考えられます。

  • 受益者への分配
  • 委託者の相続人への分配
  • 特定の目的での使用(ある方のための教育資金や医療費など)

自由な形で財産を承継できるのは家族信託の強みでもあります。当事者の死亡を終了事由としたときは、遺言書に変わる財産承継の手段として活用することもできるでしょう。

 

家族信託にかかる費用

家族信託の開始に伴いさまざまな費用が発生します。紹介するものすべてが必須ではありませんが、どのような費用が発生し得るのか、どの程度がかかるのか、相場を知っておくことは大事です。

まず初期費用として「専門家によるコンサルティング費用」や「信託契約書作成費用」「信託登記にかかる費用」などが挙げられます。専門家の利用の有無や信託財産の価額などに応じて費用は大きく異なりますが、少なくとも2,30万円はかかることが多いです。
専門家を利用する、公正証書を作成する、信託財産に不動産がある、といったケースでは50万円~100万円程度かかることもあります。

また、信託開始後においては受託者への報酬が発生することもあります。報酬については契約時に定めをおいていた場合にだけ発生しますが、特に高度な運用を任せる場合や負担が大きな場合などには報酬を設定しておくことも検討してみましょう。
報酬の相場としては月額1~5万円程度が相場とされています。

もし、より安全に家族信託を運用するのであれば「信託監督人」などを置くことも有効です。このとき、司法書士などの専門家に依頼するときは月額1,2万円程度の報酬が発生することになります。