大原司法書士事務所

3種類の遺言書(普通方式遺言)と 特殊な状況下で作成する特別方式遺言について解説

3種類の遺言書(普通方式遺言)と 特殊な状況下で作成する特別方式遺言について解説

カテゴリ:司法書士コラム

遺言書には「普通方式遺言」と「特別方式遺言」があります。通常は前者のうち①自筆証書遺言、②公正証書遺言、③秘密証書遺言のいずれかを作成することになるでしょう。

他方で①②③の作成が困難であるなど特殊な状況下にあるなら特別方式遺言により作成することも例外的に認められます。

特別方式遺言にもいくつか種類がありますし、それぞれ作成要件なども異なります。当記事でこれら「遺言書の種類」についてまとめて解説いたします。

 

普通方式遺言と特別方式遺言の違い

通常作成するのは普通方式遺言に分類される遺言書です。厳格な要件を満たして作成を行うことで法的な拘束力を持ち、相続人やその他の人物に遺産を渡したり相続人の指定をしたりすることが実現されます。

ただ、所定の要件をいかなる場合でも満たさないといけないとすれば、緊急の場で遺言書を作成したくても法的な有効なものを作成することが難しくなってしまいます。そもそも遺言書は自分自身の死を想定して作成するものであるところ、死の危険に瀕した場面での作成ができなければ本来の目的を果たせない可能性があります。

そこで「特殊な状況下では遺言書作成の要件を少し緩和する」ことを認める特別方式遺言という枠組みも用意されているのです。
これらの枠組みと具体的な種類を整理すると、下表のように表せます。

 

普通方式遺言

自筆証書遺言

公正証書遺言

秘密証書遺言

特別方式遺言

危急時遺言

死亡危急者遺言

船舶遭難者遺言

隔絶地遺言

伝染病隔離遺言

在船者遺言

 

3種の普通方式遺言の比較

普通方式遺言に分類される3種の遺言書については、次のような違いがあります。

 

①自筆証書遺言

・遺言のすべてを本人が手書きしないといけない
・自宅でもどこでも、どのタイミングでも作成可能
・法務局の遺言書補完制度を利用する場合を除いて、家庭裁判所での検認が必要

②公正証書遺言

・公証人に内容を伝えて書いてもらう
・公証役場での作成手続が必要
・立会人が必要
・検認が不要

③秘密証書遺言

・遺言書に署名捺印し、同じ印鑑で封印する。
・内容を秘密にしたまま、公証仁役場で自分の遺言書であることを述べ、公証人に確認してもらう。
・立会人が必要
・検認が必要

 

比較的多く作成されているのは①と②です。この2種について詳しく説明していきます。

自筆証書遺言について詳しく

「自筆証書遺言」は、本人の手で作成するタイプの遺言書で、1人でも作成が可能な唯一の遺言書でもあります。作成方法について規定している民法という法律でも次のように定められています。

(自筆証書遺言)
第九百六十八条 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

引用:e-Gov法令検索 民法第968条第1項


そのほかにも押さえておきたいポイントは次の通りです。

  • 全文や氏名は自書しないといけないが、別添えとする財産目録については印刷したものでもいい。
  • 具体的な作成日が分かる日付の記載をすること。
  • 押印はしないといけないが、必ずしも実印である必要はなく、認印などでも認められる。

なお、自筆証書遺言の難点は「保管方法を自分で考えて紛失や改ざんのないようにしないといけないこと」にありますが、法務局で保管をしてくれるサービスも運用されていますのでこれを利用すれば問題を解消することができます。

公正証書遺言について詳しく

公正証書遺言は、公証人と呼ばれる公務員が公正証書として作成する遺言書のことです。作成の過程では本人の遺言能力が確認されますので、後から利害関係者に「この遺言書を作成したとき本人は認知症で何も理解していなかった。だから無効だ。」などと主張されるリスクはほぼなくなります。

また、原本が公証役場に保管されますので作成後の紛失・改ざんについても心配する必要がありません。

そのほかに押さえておきたいポイントは次の通りです。

  • 公証役場での手続が必要で、基本的には自宅で作成できない。
  • 作成するときは本人と公証人のほか証人2人の立ち会いも必要。
  • 手数料がかかる。

 

4種の特別方式遺言の比較

原則として上で取り上げた普通方式遺言から選んで作成しなくてはなりません。しかし緊急で作成する必要があり、公証役場での手続ができない、または自筆証書遺言の要件を満たす形での作成ができないケースもあります。

そんなときでも特別方式の要件を満たすことができるなら遺言書が作成できます。

(普通の方式による遺言の種類)
第九百六十七条 遺言は、自筆証書、公正証書又は秘密証書によってしなければならない。ただし、特別の方式によることを許す場合は、この限りでない。

引用:e-Gov法令検索 民法第967条


特別方式として認められるには、それぞれ次の要件を満たさないといけません。

 

特別方式遺言の要件

①死亡危急者遺言

・死亡の危急にあること
・証人が3人以上立ち会うこと
・遺言者が証人の1人に口授して筆記をしてもらうこと
・各証人による承認、署名、押印があること
・遺言後、20日以内に家庭裁判所に届け出て確認してもらうこと

②船舶遭難者遺言

・死亡の危急にあること
・船舶・飛行機で遭難していること
・証人が2人以上立ち会うこと
・証人による趣旨の筆記と署名、押印があること
・遺言後遅滞なく家庭裁判所に届け出て確認してもらうこと

③伝染病隔離遺言

・伝染病により、行政処分として隔離をされていること
・証人1人以上と警察官1人以上が立ち会うこと
・遺言者、証人、警察官の署名、押印があること
・本人が作成する。

④在船者遺言

・船舶中であること
・証人2人以上と船長(または事務員)1人以上が立ち会うこと
・遺言者、筆者、証人、立会人による署名、押印があること
・本人が作成する。